■「捜査官X」 錦糸町 楽天地シネマ
新聞紙上で好評だったので。ゴールデンウィークの谷間の平日に見てきました。ネタばらししてますので未見の方はご注意ください。
ストーリーはこんな感じ。
「中国・雲南地方の平穏な山村。指名手配中の凶悪犯が、その場に居合わせた紙職人リウ(ドニー・イェン)と争って命を落とす事件が起きる。凶悪犯を退治したリウを住民たちは讃えるが、村を訪れた捜査官シュウ(金城武)は現場検証の結果、リウが正当防衛を装い、故意に凶悪犯を殺害したのではないかという疑念を抱く。徐々に事件の核心に近づいていくシュウは、リウの驚くべき過去を知ってしまう。」(シネマトゥデイ)
「捜査官X」などと現代風の邦題がついてるけど、時代設定は1917年。つまり辛亥革命から数年後ということになる。舞台は中国の雲南地方。田舎だからまだ清朝末期の雰囲気が残っている。辮髪の人がけっこういたりね。仮に日本映画だとするなら、明治初年の頃の物語…という感じだろう。
事件が起きて村にやってくる捜査官がシュウだ。タイトルが「捜査官X」だから、最初は彼が主人公だと思って見てたのだけど、結論からいってしまうとシュウは物語の語り手、狂言回し役ではないのだろうか。本当の主人公はシュウがその正体を暴いていくリウの方なのである。
実は、この作品の原題は「武侠」。ネットで調べると「武術に長け、義理を重んじる人」などと出てくる。設定ではシュウは武術の心得を持たない。一方でリウは武術の達人である(がそれを隠して生活している)。つまり、タイトルロールは明らかにリウなのだ。シュウを演じているのが金城武だから、日本向けに彼が主人公っぽく見えるタイトルに変更したのだろうか。
さて、そんな本作だけど、第一印象としては相当にカッコいい映画である。前半は事件の謎をシュウが解いていく時代ミステリ風の話なのだが、少ない会話と緊張感のある画面、見る者の想像力をかきたてるスタイリッシュな演出で目が離せなくなる。特に、現実にあるものだけでなく、シュウの「思考」までもが映像化されて画面に現れてくる独特の技法が効果的に使われていて、映画に豊かな奥行きを与えていると思った。かなり個性的な演出なので好みが分かれるところかもしれないが、雲南地方の美しい田園風景との組み合わせに違和感がなく、まさに映画ならではの世界を作り出していると感じた。
そして、作品後半は一転して壮絶なカンフーアクションの連続となる。派手な立ち回りも多いのだが、単にアクションでスカッとするということではなく、この映画が「PG-12」指定となっている理由でもある物語の闇が常に影を落とし、凄惨な美とでもいうべきものを生んでいく。
以下ネタばれになるのだけど、要するにリウは官憲も手が出せないほどの恐ろしい暗黒組織の首領の息子であり幹部だったのだが、残虐な犯罪行為を続けることに嫌気がさして組織を抜けたのである。名前を変えて別人となり、平和な山村で10年間潜伏することに成功していたのだが、その秘密をシュウが暴いてしまう。そのことを知った組織は裏切り者を処刑するために刺客を送り込んでくるのである…。
こう書いてしまうとストーリー自体は、マフィア映画のある典型的なパターンということになるだろう。しかし、ありがちな設定ではあるが、この映画はそれを新鮮に見せるためのさまざまな工夫をしているし、映像や演出の魅力で最後まで一気に見せることに成功していると思った。特に映像(編集や音楽の使い方なども含めて)は非常に洗練されていて、グロい場面までが美しいという感じである。約2時間があっという間の印象的な映画だ。
出演者について。シュウの金城武は狂言回しと考えれば最大限の役割を果たしていると思った。役のキャラ設定がかなりとっぴなので賛否あるようだけど、それは彼のせいじゃないしね。リウのドニーイェンは穏やかそうな表情とアクションシーンの切れ味の素晴らしさのギャップにうならされる。組織からの刺客を前にして、それまで封印していた武術者としての正体を現す瞬間のカッコよさときたら! 衣装の裾が風にばさっとなびく、あのタイミングもすべて計算されてるんだろうな…という気になる。千両役者の見栄が決まった瞬間のエクスタシーに匹敵する。
そして、リウの妻・アユーを演じたタン・ウェイの美しさ。「ラスト、コーション」でのファッショナブルな衣装から今回は少数民族の民族衣装だけど、彼女の魅力もこの映画の大きな要素だろう。一般に中国の美人女優というと、日本人の感覚では「クールビューティー」系が多いと思うけど、彼女は「かわいい」タイプの美人だと思う。再婚相手であるリウの過去をあえて探らず、その日その日を暮してきた健気な女性像が似合っていた。
(金城武演じるシュウの衣装は金田一耕助の書生スタイルを参考にしたのかな)
