風が強く吹いている
■映画「風が強く吹いている」 錦糸町TOHOシネマズ
ネット上で予告編を見て。小説の映画化とのことですが原作は未読です。
ストーリーはこんな感じ。
「高校時代に天才ランナーと呼ばれながらも、事件を起こして陸上から遠ざかっていたカケル(林遣都)。ひざの故障で陸上の道をあきらめた元エリートランナーにして、寛政大学陸上競技部のリーダーでもあるハイジ(小出恵介)は、そんなカケルをスカウトし、ひそかに抱き続けていた箱根駅伝出場の夢を実現させようとする。」(シネマトゥデイ)
もう年末が近いのでこういう言い方をしてもいいかもしれない。「今年見た映画の中でいちばん良かった!」と。
ジャンルとしてはいわゆる「スポ根もの」である。題材は箱根駅伝。箱根駅伝自体はお正月の風物詩として完全に定着しており誰でも知っているが、その内幕(予選会の仕組みやどういう人が参加しているのか…など)については案外知らなかったりする。そういった一般人がよく知らないところに、実はすごい戦いがある…という物語の設定がまず良い。
主人公たちはこういう物語の定番、弱小寄せ集めチームである。才能はありながらもワケありの選手、素人、落ちこぼれ…などが集まって箱根に挑戦する。といっても、最初のうちはチャランポランだ。当然、強豪校からはバカにされ屈辱を味わう。仲間割れもする。しかし、それによって、不真面目だった選手たちが、いつしか真剣にトレーニングに取り組むようになっていく…。
こう書いていくと、本当にマンガや今までの映画によくある「お約束」の展開そのものである。しかし、水戸黄門の印籠が何度見ても痛快なように、こういうスポ根もの、習い事もののお約束的展開も、それが上手に描いてあれば、何度見てもスカッとするし気持ちいいものなのだ。
そういう意味では、この映画は本当に基本に忠実という感じである。まったく奇をてらったりしていない。どこまでも誠実で爽やかである。おそらく原作では、小説というメディアの特性を生かして、チームの10人の選手一人一人のエピソードが丁寧に描かれているのではないだろうか。映画では時間的な制約があり、そのすべてを盛り込むことは不可能だが、それでも本作は、主役以外の脇役の選手たちのエピソードにも、できるだけ丁寧に対応しようとしている。だから、最後までチームの物語であるという求心力を失わないのである。
同時に、映画には映画でなければ出せない魅力もある。それは、走る選手の美しい筋肉の動きや前をみつめるひたむきな眼差し、風を切る音、広がる空の色、そしてリリカルな音楽…といった私たちの感覚に直接訴えてくる部分だ。特に、孤高の天才スポーツ少年を演じさせたら今や右に出る者はいない林遣都のランニングフォームの素晴らしさは、この映画の大きな見どころといえる。
そして、もう一人の主役である灰二(ハイジ)。チームの中心選手であり、さらに実質的監督、コーチ、マネージャーなど、何役もを完璧にこなす彼がスーパーマン的すぎると思いきや、終盤で父親が高校陸上部の監督だったことが明かされる。「管理型監督」だったという父親の指導法を身近に見て育ってきたと考えれば、ハイジが何でもできるのも不思議ではないし、さらに選手の自分を故障させてしまった父親の足りなかったところまでを学んでいたのかもしれない。そんな決してご都合主義でない脚本(原作)の緻密さも好印象に通じている。灰二役の小出恵介の明晰な言葉、人間味あふれる存在感もとても良かった。
(エンドロールで妙な「主題歌」が流れないところ、タイトルになっている言葉「風が強く吹いています」の出し方もうまい)

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