岳 -ガク-
■映画「岳 -ガク-」 新宿バルト9
月末が近いということで。この作品は劇場で予告編を2、3回見たことがあったんだけど、原作関係の知識はなし。見ようと思った最大の動機は、主演の二人がわりと好きだからかな。
ストーリーはこんな感じ。
「世界の巨峰を登り歩き山をこよなく愛する島崎三歩(小栗旬)は、山岳救助ボランティアとして登山者の命を守ってきた。春、長野県警山岳救助隊に配属された椎名久美(長澤まさみ)は三歩の指導のもと成長していくが、実際の現場では遭難者を救うことができず自信を失っていた。そんなある日、猛吹雪の冬山で多重遭難が発生し、久美は仲間と共に救助に向かうが…。」(シネマトゥデイ)
人はなぜ山に登るのか。山に登ったことがない人間にはたぶん永遠に分からないんだろうな。実際、山の事故、遭難で毎年のように命を落とす人がいる。普通に考えたら、「わざわざお金と時間使って危険な目にあいに行かなくても…」と思ってしまうんだけど、その危険を上回る醍醐味があるということなんだろう。
そのへんは自動車レースとも似ているのかもしれない。レース中の事故で多くのドライバーが命を落としているけど、目の前でライバルや僚友が死んだからといってレースを止めるようなドライバーもまたいないのだ。
…とまあ、山と人間の関係についてつい考えてしまうのは、この映画が山岳救助を題材にしているからだ。全編に北アルプスの素晴らしい風景が出てくるけど、同時に事故や遭難、それによる死が大きな部分を占めている。木も生えてないような、岩と氷雪だけの高山地帯は美しく、同時にどこかこの世のものではないような景色でもある。人間の領域というよりは神の領域。つまり、限りなく死の世界に近い場所なのだ。
そんな場所に惹かれ続けるということは、山好きの人間の心の奥底には何か「死と隣り合わせの場所」に魅力を感じるものがあるのかもしれない。特に本作の主人公、島崎三歩にはそれを感じる。彼は「山で命を捨ててはいけない」「生きろ」といつも言っているのに、その言葉とは裏腹に単身で超危険な救助に向かうことにまったく躊躇がない。彼の心の中にはおそらく、かつて目の前で死んだ親友の姿がある。山で親友を死なせた、助けられなかったからこそ、他の人の命をできるだけたくさん救いたい…という気持ち。そして、いつかその親友のところへ行くのが自分の定めだと思っている気持ち。その両者がせめぎあっているのが三歩なのではないか。見終わった後、そのへんのテーマが掘り下げてあると良かったのにな…とふと思ってしまった。
全体的な評価としては、脚本の練り込みが足りない気がした。特に、ストーリーテラーの位置づけにある椎名久美(長澤まさみ)のキャラクターが、なんとも中途半端。前半では妙に素人っぽい発言連発で、まあそれは観客目線の代理ということでいいんだけど、ところが後半になると彼女の出自自体がまるっきりの素人であっちゃいけない、相当な覚悟で山岳救助の世界に飛び込んでいないといけないはずのものだということが分かってきたりする。この彼女のバックグラウンドや心の成長の部分は、やはりしっかり書き込んでほしかったなあ。
その他の部分も、分かりやすい話にするために奥行きを削っている印象。前半はいろんな出来事が散発的に起こって、そこで登場人物のキャラクターを明らかにしていこうということなんだろうけど、いまいち牽引力が弱い。救助隊メンバーたちのキャラにも膨らみがないし。後半は絶体絶命の多重遭難に立ち向かうということで求心力は出てくるんだけど、ここでも細かい突っ込みどころがあったりして、なんとも惜しい感じだ。日本アルプスの美しい映像と迫力、体を張った出演者の頑張りは良かったんだけどね。
(三歩が日常生活で身近にいたらウザキャラ確定だろうな。でも極限状態ではそれが逆に頼もしいんだよね)

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