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2016年12月29日 (木)

MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間

■映画「MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間」 日比谷 TOHOシネマズシャンテ

マイルス・デイヴィスを題材にした映画…とくれば、ジャズ好きとしては見逃せないですよね。けっこう前から公開される日を待っていた作品でした。

ストーリーはこんな感じ。
「ジャズ界の帝王として君臨するも、1970年代後半から公の場に姿を見せなくなったマイルス・デイヴィス(ドン・チードル)。自宅に1人でこもり、慢性の腰痛、ドラッグと鎮痛剤の影響に苦しむ毎日だ。そんなある日、音楽誌記者のデイヴ・ブレイデン(ユアン・マクレガー)が押しかけてくる。二人は、盗まれたマイルスの最新曲を収めたテープを捜すことに。騒動の中で、マイルスは元妻フランシス・テイラー(エマヤツィ・コーリナルディ)との結婚生活を思い出す…。」(シネマトゥデイ)

1940年代から1980年代まで、5つのディケイドにわたってスターであり続けたマイルス。しかし、1970年代の後半だけは、そのキャリアにぽっかりと穴があいている。本作はその空白の5年間にスポットを当てた作品だ。とにかく長い間活躍していた人だし、マイルスの演奏スタイルの変化=ジャズの歴史といってもいいような巨人である。すべてを描こうとしたら10時間あっても足りないだろう。2時間弱の映画にまとめるために、あえて「空白」の期間に注目した…というのはなかなかおもしろい試みだと思った。

物語の本筋は、マイルスが密かにレコーディングしていた新作のテープを奪われ、それを取り戻そうとする一連の騒動だ。しかし、70年代後半のマイルスの実態は謎に包まれており、その時期に何があったのかを正しく知る人は、本当に身近だったごく一部の人たちしかいない。つまり、この物語そのものがおそらくは、監督・主演を務めたドン・チードルのイメージによって創作されたフィクションではないのだろうか。

また、現在進行形の物語の途中に、マイルスの回想が何度もインサートされる。その中心になっているのは、二番目の妻だったフランシス・テイラーとの思い出だ。出会いから結婚、不仲になり離婚するまでが、その時々のマイルスの音楽とともに描かれる。時代によって変化するマイルスバンドの面々も登場し、演奏シーンもたっぷりあるので非常に興味深い。ただ、ここでも出来事の前後関係が入れ替えられていたり…ということがけっこうあるようだ。

つまり、この映画は正確な意味での伝記映画というよりは、マイルスというスーパースターのイメージをもとに生み出された、一種のファンタジーなのかもしれない。実際に物語のエンディングでは、80年代に復活したと思しきマイルスが、60年代のバンドの主要メンバー、ハービー・ハンコックやウェイン・ショーターたち(もちろん現在の老境に入った彼らである)を従えて現代風のめっちゃカッコいい演奏を繰り広げる! もう時間軸は完全にムチャクチャになっているのだが、そこにあるのは圧倒的な音楽の陶酔感だけである。マイルスは1991年に65歳で死去しているが、今も天国でインスピレーションのままに演奏を続けているんだろうな…と思わせるシーンであった。

そんな虚実ないまぜの映画であるが、結論からいえばものすごくおもしろい。実際のマイルス、というよりもイメージの中のマイルスが描かれているからそのカッコよさが半端ではないのだろう。もちろん、70年代のマイルスは半ば引退状態、ヤク中でヨレヨレのくせにやたら偉そうなとんでもないオヤジである。しかし、それでも細かいところにカッコよさが表れる。クラブに乗り込もうという時に、雑誌記者の服装がダサいからと着替えさせる。テープを奪った若手ミュージシャンと立ち回りを演じた後、「あそこであの音は使うな」と音楽的な指導を入れる。そして、銃撃戦やカーチェイスまでやってテープを取り戻そうとした理由もまた、そんなマイルスの美学に基づくものだった…ということが最後に明らかになる。スーパースターの栄光と孤独。でも、ファンには苦悩さえもカッコよく見えてしまうという宿命。そんなものが感じられる映画ではないだろうか。

ジャズファンとしては、ギル・エバンスとのレコーディングシーン、ビル・エバンスらを擁するバンドでのライブシーン、ハンコックやショーターらとの自宅地下のスタジオでのリハーサルシーン…どれも楽しい。また、音響もとても良く、いつもこういう音でジャズが聴けたらいいなあと思ってしまった。その意味でもぜひ劇場で見たい映画だといえよう。

マイルス役のドン・チードルは、はっきりいってマイルスとは似ていない(本物の方が男前である)。予告の段階では違和感もあったくらいだ。しかし、不思議なものでだんだんマイルスに見えてきた。まさに演技の力だろう。独特のしゃがれ声も巧みに再現している。楽器の扱いもうまい。監督までするくらいだから、本当にマイルスが好きなのだろう。フィクション多めであっても、決して「マイルスの実像が歪められている」という印象にならないのは、彼のマイルス愛がベースにあるからだという気がした。

(自宅でくつろいでる時でもこんな感じ)
Miles


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