小説 上杉鷹山
■「小説 上杉鷹山」 童門冬二(集英社文庫)
少し前にテレビで「上杉鷹山」をとりあげた番組を見て、「そういえば本持ってたな…」と思って再読してみました。前回一度読んだだけだったし、テレビで改めて全体像をおさらいしていたので、より興味深く読めましたね。
内容はこんな感じ。
「九州の小藩からわずか十七歳で名門・上杉家の養子に入り、出羽・米沢の藩主となった治憲(後の鷹山)は、破滅の危機にあった藩政を建て直すべく、直ちに改革に乗り出す。―高邁な理想に燃え、すぐれた実践能力と人を思いやる心で、家臣や領民の信頼を集めていった経世家・上杉鷹山の感動の生涯を描いた長篇。」(「BOOK」データベースより)
タイトルに「小説」とついているように、上杉鷹山を題材としつつも、完全な伝記ではなく、フィクションの要素も盛り込んだ作品。脇役たちのサイドストーリー部分がそうだし、上杉鷹山自身に関するエピソードでも、話がスムーズに流れるように、多少前後関係を変えてあったりもするようだ。
巻末に実在の上杉鷹山の年譜が載ってるので、比較するとそれがどこなのかわかる。たとえば、藩の人材育成のために設立した学校「興譲館」の指導者として学者・細井平洲を招き、彼をを国境まで出迎えたのは鷹山46歳の時のものだ。しかし、本作では20代前半の時のエピソードとしている。他にも、同様の「改変」は何点かであるようだ。だから、あまり「歴史の本」としては読まない方がいいのかもしれない。ただ、上杉鷹山の事績を知るための「とっかかり」と考えれば、とても読みやすいし、本質はきっちり押さえた本なので十分おすすめできると思う。
さて、上杉鷹山といえば、破綻寸前の米沢藩(上杉家)の財政を立て直し、殖産興業を成し遂げたことで知られる。江戸時代の人でありながら、近代的な思考や柔軟な改革精神を持ちあわせた人物であり、その舞台を今日の企業や自治体に置き換えても、リーダーシップの見本として大変参考になるものといえる。
いってみれば日産に乗り込んだカルロス・ゴーン氏が見事にその経営を立て直したようなものだが、ゴーン氏が社長就任時に実績十分の経営者であったのに対して、上杉鷹山(当時は治憲)が他家から養子に入って家督を継いだのは弱冠17歳の時である。彼は当主となってすぐに改革に着手する。しかし、上杉家といえば上杉謙信を祖先に持つ名門の武家である。そこに他家から来た若者がいきなり「改革」を行うと宣言したのだから、これはもう「抵抗勢力」が黙ってはいない。そこから先は小説を読んでもらうのがいちばんだけど、硬軟の顔を使い分ける鷹山は若年ながら、まったくおそるべき政治家である。このあたりは実に痛快に読める。
本作は、鷹山が抵抗勢力を切り崩し、その徳と愛による政治を米沢に根づかせていくところに重点が置かれているのだが、先日見たテレビ番組では、隠居した後もいっそう改革に力を入れた(というか、むしろ継続的な改革に取り組むため、参勤交代のある当主の座を次世代に譲り、自分は米沢に常駐したというのが本当らしい)ことも強調されていた。小説では、そのあたりの話はエピローグ的な扱いであまり詳しくは書かれていないけど、さらにじっくり調べてもおもしろそうだ。機会があれば、今度は史実ベースの鷹山の評伝や改革の全体像をとらえた本を読んでみたい気がした。
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